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「とりあえず誤解だからさ。今のところは、ね」
生徒会の調査で噂通りと判ったなら、その時に思う存分叩けばいい。そういうメッセージを込めてじっと顔を見ると、伝わったようだった。ゲスらしく悪意に関しては敏感なのかもしれない。
「草可が言うならそーすっか。……ゴメンねー? センパイ」
ニヤニヤしながら軽薄に頭を下げる。
ナメられて終わりたくないだけで大した衝動も目的もない連中だ。どうせ生徒会が結論を出す頃には忘れている。
(叩く部分なんて残さないくらい俺がギタギタにするから、関係ないけどな)
九重米は納得していない風だが、ひとまず我慢してくれている。と、言うよりビックリしている。こんなにも目が開いた彼女を初めて見た。
「ホントに驚いた。アンタちゃんと優等生なんだね? 昨日のイライラボーイとは別人かな」
手招きされるに従って廊下へ出るとそんな失礼なことを言われた。
「何が原因でイライラしていたかはお気づきでないようだ」
「思春期でしょ。それより、これからあの子たちのこと守ってもらえないかな?」
あの子たち、というのはさっき絡まれていた刹那課員のことだろう。
「課長のボクがしなくちゃいけないことってわかってるけど、学年が違うとどうしても目が届かないんだ。......お願い」
クラスメイトを守るくらいのことは優等生として当然だ。身の回りで無秩序がまかり通るのも許しがたい。
「さっきの二人に限らず、何かあればすぐに頼るよう言っておけ。……その代わり部の方で見た俺のちょっと様子がおかしいところは秘密にしろ。保身で言っているんじゃないぞ? 俺の発言力は優等生だからこそであって、そのイメージが崩れればお前の仲間を守れなくなる」
九重米は見せつけるかのようにゆっくりと頷いた。
その直後、その体から目に見えて力が抜ける。驚いて思わず手を差し出したほどだ。
「別に倒れるほどじゃないっつーの。でも......アンタを頼っといて強がるのも今更か」
一歩フラついただけで留まり、行き先のなくなった俺の手に九重米は掌を重ねる。震えていた。
「......怖かった」
教室では自然に振る舞っていたようで、その実ムリをして気を張っていたらしい。
(なんだよ。立派な課長さんじゃないか)
コイツはマトモなやつかもしれない。もう一度だけ騙されてやる気になれた。
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