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「常人の理解を越えたものは評価されないんです。ピカソやモネ、皆苦労しています。天才にとっては生きづらい世の中ですよ。」
ゴールデンウィークのはじまりの日、スーツケースを持った人々が品川駅構内を行交う。それでも、平日のラッシュ時のような混雑はない。東京にいる多くは通いのサラリーマンで、住民は少ない。品川から京急本線エアポート急行・羽田空港国内線ターミナル行に乗り、10駅30分。ふたりは、国内線ターミナル駅のホームに降り立った。
「第1と第2、どちらでしょうか。」
「見えました。こっちに歩いて行きます。」
探偵は、誰かの背中を追うように、第2ターミナル方向に歩きだした。青年もその後に従う。
「荷物は小さい鞄だけなので、長期の旅行では無さそうですね。」
前を向いたまま、探偵が言った。改札を出て、長いエスカレータで出発ロビーへと昇る。出発便案内の電光掲示板の下で、探偵が立ち止まった。
「カウンターの前で、案内板を見上げて、迷っているようです。」
ふたりは、しばらくその場に佇んでいた。青年は、頭上の電光掲示板を仰いだ。航空機の出発時間を告げる表示が切り替わり、構内放送が出発手続きの締切り時間を伝える。不意に、探偵が口を開いた。
「戻るようです。ついて行ってみましょう。」
元来た長いエスカレータで駅の改札の方向へ降りる。
「スマートフォンを操作しています。それから、……いや、ここで途絶えています。」
「なぜ。」
「車両はその時々で違いますから。電車に乗ってしまっては追えなくなる。」
「いままでの情報から推理するしかありません。」
「空港に来たなら、飛行機に乗ったんじゃないんですか。」
「そうですね。国際線と国内線を間違えたのかもしれない。」
「スマートフォンの画面は見えないんですか。」
「ありました。横浜までの路線情報だ。」
停車した電車に乗り込む。横浜駅で降りて、ホームを端から端へ歩いた。
「見えません。」
「途中で降りる駅を変えたということですか。」
「そうでしょうね。……弟さんが行きそうな場所に、心当たりはありませんか。」
「いや、リヴァリエに帰ったんじゃないですか。京急に乗ってますし。」
「弟さんは、羽田空港の出発カウンターまで行っている。飛行機に乗ろうとしたのでしょう。しかし、乗らなかった。そして、横浜への乗り換えを調べた。しかし、降りなかった。……これが、どういう意味を持つのか。」
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