染める夕陽

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 「って、列もなくなるところだし、あのバスもう出るところなんじゃないか?」  行こうと決めた矢先にバスに乗り遅れたのではあまりにも空しいので、小走りでバスに駆け寄りそのまま乗車した。バス車内は比較的混雑していたが、ちょうど一番後ろの列の右側が空いていたので、そこに腰を下ろした。    予想と違わずに程なくしてドアが閉まり、城ヶ島に向けてバスが走り始める。  「どこまで乗る?」  ふと窓側に座っていた陽瀬が顔をこちらに向けながら話しかけてきた。  「どこって、城ヶ島までじゃないのか?」  「城ヶ島までだよっ?だけど今調べたら城ヶ島の中にもバス停が3か所あるみたい」  いつの間に開いたのか陽瀬が差し出したスマホの画面には、このバスの経路と思しき路線図が表示されている。  「ほら、この白秋碑前と城ヶ島漁港前と城ヶ島ってのがあるんだけど、どうする?」  「もうここまで来たら終点まで行くしかないだろ。なにも終点まで行ったら帰れないとかじゃないわけだし、乗りかかったバスってやつだろ」  「だよねっ」  といいニコッと笑い、また視線を窓の外へと向ける。  その後は、西日が時折差し込むバスの窓から外に広がる畑を見たり、住宅地を見たりしながら他愛のない話をし、そしてしばらくすると、  「あ~っ、海だ!」  陽瀬はやけに明るい声を出し、しかし視線は窓の外を向いたまま小学生のような感想を発する。  「まぁな。ってか、海なら三崎口に来る間にも見たじゃないか」  そう返すと俺の方に向き直り、  「和也ってさぁ、そういうドライなところあるよね。やっぱりこうやって目的地で見るっていうのが良いんだよっ。着いた~って感じがするじゃない?」  まだ目的地じゃないけどな。と返そうと思ったが、全く同じ返事をされそうなので心の中に留めておき、話題を少し変える。  「ほら、城ヶ島も見えてるぞ。あれが城ヶ島大橋ってのだよな」  その言葉に引かれるように、陽瀬がクッと視線を上げる。  「うん、そうだねっ」  三崎港から見える橋と島。やっと着いたんだという思いが何となくこみ上げる。泉岳寺からだいたい1時間半くらいのただの学校帰りなわけだが、こうして目的地を間近にしてみると妙な達成感を感じてしまう。
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