第1章

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「怒られてばっかで嫌になりますよ」 ぽつりと出てしまった愚痴にはっとする。こんな見ず知らずのおっさんにこんな事言ってもしかたがないのに。こっそりとおっさんの方を見てみれば、おっさんは缶ビールを一口飲み、空を仰いだ。 「お前は贅沢な奴だなあ」 その言葉の意味が分からず、「何が」と聞こうとすれば、その前におっさんは再び口を開いた。 「俺が働いてたときなんてなあ、上司から怒られないのは見捨てられたも同然なんだよ」 さっきまでのひっくり返りそうな声とは逆に、野太い声だった。 「だいたいなあ!」再びひっくり返りそうな声を出した 「嫌ならやめればいいじゃねえか!人間には嫌な事を我慢してやってる時間なんてねえんだよ!やめたいのにやめられないのか、やめたくないのか、どっちなんだよ」 その言葉にはっとする。仕事は好きだ。憧れてた第一志望の会社だし。ちゃんと好きな事をやってる。やめようと思った事なんて無い。 「………やめたくないです」 ぽつりと呟いた言葉を、おっさんはちゃんと聞き取ってくれたらしく、にっと笑った。 「そおか!じゃああれだな!お前が悩んでるのはニンゲンカンケイってやつだ!」 ゆっくりと頷いた。 「そうとなりゃ簡単だ!お前に足りてねえのは感謝だ!」 いまいち理解できず「はあ」と言葉を返す。そんな俺を見ておっさんはまた笑った。 「全てに感謝しろ!全てだ!毎日怒鳴られる上司にだってな!そうすりゃ変わるよ。全部な」
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