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「ほんと!は、早く、見てごらんよ!」
恵美子も口に豆大福を入れたまま立ち上がり、スマホを指さした。
二人とも言葉には出さなかったが、朝から琴音の様子が妙なことには、ずっと気がついていたのだ。
琴音は、ふるえる左手でスマホを取り、息を吐きながら右手でゆっくりと慎重にメールを開いた。
ようやく待っていた「メール」であると確認できた。
差出人は劇団代表の穂口、宛先は清水琴音、荒木トモヨの2名になっている。
「おつかれさまです。
Gプロのプロデューサーとは明日18水曜午後2時に赤坂のGプロで会います。
先日の江崎監督も来ます。
Gプロの住所は自分でスマホで調べて来て下さい。オレはガラケーだから地図送れないんだよん(笑)せっかくのチャンスだから2人とも頑張れ!
よろしく 穂口」
読みおえた琴音は、スマホを両手で胸に押しいだき、ため息をつきながら天井を見つめた。
「どした?ダメだったの?」
恵美子は、大福の白い粉がついた指をティッシュでふきながら不安そうにたずねた。
「ううん。OKでした!明日の2時に決まりました。水曜日はお店が休みだから、ちょうどよかったです!」
琴音は油断すると涙が出そうになるのをこらえて、笑顔で元気よく答えた。
「あら、良かったじゃない~。心配してたのよ~
。今日は琴ちゃんの様子がずっと変だったからさ~」
安心した恵美子は、2つ目の豆大福に手をのばした。
「やったね、清水さん。今回はテレビに出られるチャンスなんだろう」
さっきまで電卓を打っていた松島までが嬉しそうに右手を上げて軽いガッツポーズをした。
「…そんな、まだ決まったわけじゃありません」
あわてて手と首を横にふる琴音だった。
「あら、そうなの?」
恵美子は大きな目をさらにギョロリとさせた。
「明日のオーディションに呼ばれてるのは同じ劇団からもうひとりいて、その子のほうがあたしより美人で目立つし。そっちが選ばれるかも知れません…」
琴音は正直に状況を説明した。
「大丈夫だよ。清水さんが選ばれるよ、きっと!」
人の好い松島は、何の根拠もないことだが、身びいきで「選考」に太鼓判を押した。
「…そうだといいんですが…」
苦笑いして肩をすくめる琴音の前に、恵美子は豆大福をティッシュと一緒に差し出した。
「さっ、これ1つ取って」
「あたし、明日までにダイエットしなくちゃ…」
「へ?」
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