第1章

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と光っていた。下部にはキャッチフレーズだろうか、「三崎のまぐろを食べに行こう」という文言がある。                          「なにこれ?」 「食事券付きの切符だって。京 急のやつなんだけど、ゆーくん けーかまにいるのに知らないの ?」  けーかまというのは、「京急蒲田」のことだ。僕は3年前に大学に入学してから、ずっとこの街で一人暮らしをしている。「けーかま」という呼び方は僕が友達から聞いて使うようになったのを、姉が真似するようになったのだ。                   「そう言われてみれば、駅にこ                   んな感じのポスターが貼ってあ                   ったような……」 「三崎まで行って海見て、マグ ロ食べて、お土産ついて3000 円ぐらい。出してあげてもいい けど。行けるの?」  何でもテキパキと行動できるタイプの姉に対して、僕は何に対しても優柔不断で、なかなか決められないようなタイプの人間だった。  もちろん、二つ返事で行きたいという気持ちはあった。他でもない母の誕生日だし、バイトも休みだ。マグロは大好物だし、ここのところ海も見ていない。なんだか想像しただけでも海の潮風に吹かれるような心地がして、爽やかな気分になるようだった。  ……しかし、現実には返事は難しかった。家族での誕生会は一週間後に実家で正式に執り行われることになっていたし、なによりーー、僕には余裕がなかったのだ。今は3月で、僕は大学3年生だ。このことが示すのは、いま僕はいわゆる「就活生」になってしまったということだった。                   「うーん、ちょっと就活がある                    から、無理かも」  就活時期は最近よく変更されているそうなのだが、今年は3月に広報
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