第1章

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が解禁され、6月には選考が解禁されるという過密スケジュールなのだそうだ。「超短期決戦」とも呼ばれているらしい。……と他人事のように言っているのは、まさに僕にとってはまだ就活が、他人事のようにしか思えないからなのだった。  就活生……周りの友人たちは皆、もうしっかりと動き出していた。大学2年までは一緒にふざけ合っていた仲間たちが、今やSNSで「意識の高い」発言を連発している。遊び場として重宝された一人暮らしの我が家にも、もはや誰も寄り付かなくなっていた。大学が春休みに入ってからというもの、僕はコンビニのバイトに行く以外は、家で一人、もんもんとして過ごしている。 「もうそんな時期なんだ、大変 だね。わかった、誕生会は来れ るんでしょ?」                   「誕生会は行けるよ。せっかく                    だけど、大事な時期なので。                    ごめん」  そう、大事な時期だ。大事な時期なのに、僕はまだ何一つ行動を起こせていなかった。「就活があるから」とは言ってみたものの、実際には説明会も何も、ただの一つも予定は入っていなかった。ただ、「明日こそ就活を始めなきゃやばい」といつも思っているというだけの話だった。  何も始められないまま、日に日に焦りは募り、絶望感は増してくる。「明日こそ」と思い始めてから、一体どれくらい経っただろうか。  僕は……大人になりたくなかった。  いや、なれる気がしないのだ、というほうが正確かもしれない。今までずっと不自由のない、恵まれた環境の中で育ってきて、自分の人生には文句がなかった。もしまた誰かに生まれ変われるとしたら、また自分に生まれたいとすら思う。そんな人生だ。  ここでの一人暮らしだって、特に必要に迫られてしているものではなかった。実家は都内にあって、そこからでも大学には通える。ただ単に一人暮らしに憧れて、遊び場所ほしさに両親に頼んで、家賃を払ってもらっているというわけだ。  そんな甘ったれた人間が、会社に就職などできるだろうか? 社会に出て立派にお金を稼げるだろうか? とても、そんな気にはなれなかった。自分は何一つも成長していない。大人になんてなれないーー。 「いま品川で、京急に乗り換え
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