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数分がたった、彼には果てしなく長い数分だっただろう。
「誰か…おーぃ…」
何度か助けを呼んでみたものの、子供達のパワフルな声に反響した声はかき消され続け、彼の声もどんどんと小さくなる一方だった。
もう、遅刻は逃れられない。
紙も一向に手に入れられる考えが浮かばない。
俺が何をした…と壮大な事の様に悲観しても現状は変わらず。
それをやる事により、虚しさがより一層彼を襲っていた。
「…あのー」
そんな中、外から声がした。
少し高めの可愛い声だった。
その声が聞こえた途端、彼は俯いていた顔をバッと上げ閉まっている扉に両手を叩きつけ
「お願いです!助けてください!紙ください!」
「え?は、はいッ!えっと、ポケットテッシュならいっぱいあります!」
そう言い、外に居る声の主は、7つほどポケットテッシュを扉から彼に向け滑り込ませた。
「あ、あと…これも貴方のですか?」
そう聞こえ、彼の目に写ったのは扉の下から半分だけ見える携帯、その液晶には数件着信ありと表示されていた。
怒られるな…
少し乾き始めていた門の汚れをしっかりと拭き取りながら、彼は思う。
しかし、ついさっきまでとは違い不思議と笑みがこぼれていた。
もしかしたら、吹っ切れたのかもしれないし、考えすぎでおかしくなったのかもしれない。
まぁ、どちらでもいいか…まずは外にいる人にお礼をしっかりと言おう。
汚れを拭きあげ、流し終わった彼は返事をしない彼に'あの~'とまだ声を掛けてくれている人へとお礼をするために、ゆっくりと扉を開け差し込む光が異常に眩しく感じながらも彼は彼女と対面した。
人生とは面白いもので、この出会いは彼にとって長い付き合いとなる。
その事を彼はあまり話さないのだが、出会いは?と聞かれると話さなければならなくなり、彼は言葉を濁し、いつももう一人の当事者が話をするらしい。
度重なる苦労の先に、合間合間の幸福を感じ、彼の醜態は子供達に語り継がれる。
彼は、昼下がりの公園でベンチに座り、目の前遊ぶ子供達を見ながら弁当を食べる。
数年前と変わらぬ風景。
ただ、数年前と変わっている事があるならば
今日は休みで、弁当はモヤシ炒めと白米に梅干じゃなく、目の前の子供達は我が子で…
「元気だな…」
「そうですね」
呟く言葉は独り言じゃなくなった事だ。
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