ループ

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「ちょっ……ここはどこなんだ?」 私は堪りかねて、ろくに吸ってもいない煙草を揉み消すと、そう口にした。すると、 「え? 俺の部屋だけど?」 部屋の持ち主が、平然とそう口にした。他の面々も、不思議そうな顔で私を見てくる。まるで私だけが、違う空間にいるかのようだ。私が言うべき言葉を探していると、皆また何も無かったかのような表情で、会話に戻った。その時、突然扉が開いた。薄暗い部屋に光が入り込み、薄く棚引く青白い筋を照らし出す。その筋は空気の流れに導かれながら、私達の周りを緩やかに漂っていた。 そんな、うすい膜を貼ったような視界の向こうに、人影が紛れ込む。それは制帽を目深に被り、軍服を着た男達だった。皆、何事かとそちらに顔を向ける。 最後に女性が入ってきた。歳は私と同じ頃だろう。しかし、眉の上で切り揃えられた前髪と黒目がちな大きな瞳、小さめの丸い可愛らしい鼻が、彼女を若く見せている。そんな中で、不機嫌そうに固く結ばれた口元が、不釣り合いに見えた。 男達は、彼女の邪魔にならないよう、壁際に寄っている。その前を、ぴんと背筋を張った彼女が、足を踏み出した。しかし彼女が男達の前を歩き、私にその不機嫌な顔を向ける事はなかった。何故なら彼女は、その場で崩折れたからだ。 その直前に、何かが破裂したような音が聞こえた。それが銃声だった事に気付いたのは、倒れた彼女の下を、赤い染みが広がるのを見てからだった。 彼女は誰なのか。何故、彼女は撃たれたのか。 私の頭の中は、様々な疑問が渦巻き、混乱していた。そのまま目の前が真っ暗になり、私の意識は途切れた。
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