4 午後、陽だまりの

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4 午後、陽だまりの

四宮(しのみや)さーん!」  名前を呼ばれ、四宮さゆりはうしろを振り返った。  食堂に続く細い渡り廊下を、女子にしては長身の西原愛美(にしはらまなみ)が小走りで追いかけてくる。  入社して間もないということではなく、もっと根本的なところで地味な色の制服は派手な雰囲気の愛美に似合っていない。  しかし、制服があると勤務中のドレスコードに私服を合わせる必要がなく、通勤に自分の好きな服が着られるので嬉しいらしい。 「お昼、ご一緒してもいいですかあ? 」 「もちろんやちゃ。一緒に行こ。愛美ちゃんもお昼の時間ずれたん?」 「納品が遅れて、今までかかったんですよ。でもラッキーだったかも。食堂、空いてるし」 「確かに空いとるんやけどね、この時間は日替わりはもう売り切れとるのよ、たぶん」 「ええ、そんながや! ショックー」  さゆりは地元の製薬工場で事務員として働いている。  愛美とは部署は違うが、彼女の研修の一部をさゆりが担当したことと、一度上京はしたものの今は地元に戻っているUターン組という共通点もあって、たまに仕事帰りに夕食を食べに行ったりする仲だ。  東京でアパレルショップの店員をしていたらしい愛美は私服もいつも華やかで、さえない事務服を着ている今もつけまつげとアイラインがばっちりだ。 「日替わり売り切れとったら何食べよー。四宮さん、何にするんですか?」  そう言いながら、愛美が髪を留めていたクリップをはずす。  顎のラインで切り揃えられた厚みのあるヘアスタイルは雑誌からそのまま抜け出てきたようにかわいくて、さゆりはひそかに、真似して自分も髪を切ろうかと思っている。  さゆりの髪はここしばらく胸辺りまで長さのあるロングだが、学生の頃はずっと愛美と同じくらいの長さのボブだった。  食堂は空いていた。  いつもの三分の一も人がいない。  正午から始まる昼休みには大勢働く工場員が利用するので、食堂の混雑といったら凄まじいものがあるが、今の時間はすでに午後の就業が始まっている。  まぶしい陽の光に、さゆりは目を細めた。  去年、改装したばかりの新しい食堂はガラス張りで、めいっぱい陽光を取り込む設計で、特に人が少ない分今はいつにも増して明るさが感じられる。    さゆりの予想通り、日替わり定食はAとBの二種類とも売り切れていて、愛美は迷った挙句、さゆりと同じオムライスを注文した。  それは流行りの店で出されるもののように卵は全くとろりとしておらず、時には焼目までついたパリっとした卵で包まれているのだが、あっさりとしていてさゆりは好きなのだ。  窓際の陽だまりの席を取る。  レモンイエローのロールカーテンを途中まで下ろした。 「ほんとだー。オムライスも美味しいんだ」 「でしょ。うち、けっこうオムライス率高いよ」 「あ、ちょっとケータイチェックしていいですかあ?」 「いいよー、どうぞ」  あっという間に食べ終えた愛美はトレーを横にずらして、ランチバッグからスマートフォンを取り出した。  愛美の長い爪が、スマートフォンの画面に当たってかちかちと音を立てる。  保護ケースにはラインストーンと大きなデコレーションパーツがひしめき合っている。
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