7人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
その言葉に、俺は目元を緩めた。
そう、俺は確かに、旧主の前に札束を積まれて一条の屋敷に移ったけれど。
雅お嬢様に仕えると決めたのは、金銭が一切介入しない、俺自身の意志だった。
『この人が仕えてくれないというならば、他に執事なんていらない』と言いながらも、雅お嬢様は決して自身への服従を強いてはこなかった。
札束が旧主の前に積まれたのは、俺の意志表示の後だった。
「ねぇ時任。
時任は、彼女の元に帰りたいの?」
あの時と同じように、雅お嬢様は真っ直ぐに俺を見上げた。
澄んだ瞳は、俺の答えを待っている。
不安に震えながらも、先に自分の思いをぶつけて、俺の意志を曲げようとはしない。
だから俺は、正面から雅お嬢様の視線を受け止めて、柔らかく笑った。
お嬢様が抱く不安を全て蹴散らしてしまえるように。
向けてくれる温もりに、報いることができるように。
最初のコメントを投稿しよう!