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「いいえ」
答えた声音がかつてないほどに柔らかかったことには、女が一番気付いただろう。
これは誰だと、女が驚きに瞳を染めて俺を見ているのが分かる。
「俺が帰りたいと思う場所は、雅お嬢様の所だけですよ」
「そう」
だが雅お嬢様は驚かない。
ニコリと笑みを広げて、俺の方へ手を差し伸べてくる。
「じゃあ、帰ろう!
お父さまが首を長くしてお待ちだわ」
「帰る、ではなく、行く、ですがね。
本日はレストランでディナーパーティーだと、朝御説明差し上げたはずですが」
「むっ……むぅっ!!
わ、分かってるもんっ!!」
雅お嬢様の手を取った俺は、もう背後を振り返らなかった。
女が何やら罵声を上げていることは分かったから、汚い言葉が雅お嬢様の耳に入らないようにさっさとその場を離れる。
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