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「久しぶりね、悠(はるか)」
通常業務が終了してから出向いた高級レストラン。
先に席についていた旧主は、鮮やかに紅を塗った唇に笑みを浮かべて俺を迎え入れた。
「……御用件は何でしょう、速水(はやみ)様」
「景子(けいこ)、と呼んでいいのよ? 悠。
あたくし達の仲ではないの」
鷹揚な態度でウエイターを呼びつけた旧主は、俺の席にも赤ワインのグラスを置かせた。
旧主の唇を彩る口紅と同じ、ドロリと濁った毒々しい赤。
「帰っていらっしゃいな、悠」
その赤を一息であおった旧主は、すでに上気した顔でうっとりと俺を見つめた。
男の劣情を誘うなまめかしい視線が、上から下まで俺の上を滑る。
「あなた、一条の旦那様ではなくて、その娘に仕えているという話じゃない。
たかが10歳の小娘に」
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