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その視線にも、言葉にも、俺は微塵も反応しなかった。
俺の前に置かれた赤は、さざ波一つ起こさない。
「あたくしは、一条の旦那様がどうしてもと言うからあなたを譲ったの。
小娘の遊び相手をさせるために手放したんじゃないわ。
だから……」
「戻ってこい、と?」
「ええ。
あなたも、オママゴトよりも、あたくしと夜を過ごした方がイイでしょう……?」
旧主の指が、己の纏ったドレスの襟をたどる。
男を誘う、女の指。
その指先の動き1つでどれだけの男がなびいたか、おそらく一番傍近くに仕えてきた俺が、一番よく知っている。
「……新しい主は、確かによくオママゴトを所望されます。
お相手しておりますよ」
俺の感情のない言葉に、旧主は満足そうな笑みを浮かべた。
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