貴女に寄り添う光のように

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「私は毎朝、家令に服装チェックをお願いするのですが。  一週間ほど前、家令にこう言われました。  『ああ、あともう少しで完成するね』と」  俺は淡々と言葉を続けた。  俺の目の前で、一切手をつけられていない料理が、言葉にあてられたかのように冷めていく。 「私のお仕着せは、ほぼ日替わりで変わります。  その変更が、ここ数日ありませんでした。  そして今朝、私の服装をチェックして家令はこう言いました。  『雅様はようやく、君に満足してもらえるお仕着せを作ることができたんだね』と」  旧主は、俺がこのレストランにくるにあたって、あえてフォーマルな服装に改めてきたのだと考えているのだろうが、それは大きな間違いだ。  完全オーダーメイドの、1着で俺の給料が何カ月分も飛ぶような高級スーツ。  それをお仕着せとして仕立てさせ、あえて体を動かさせることで日々微調整を繰り返し、完璧に俺の体になじむように細かい指示を繰り返し出して作り直していたなんて、恐らく一条の人間にしか予想できなかっただろう。  しかも、下手をすれば何百万単位で金を動かすその指示を、総帥直系とは言え10歳の少女が出していたなんて、もはや夢にも思うまい。
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