貴女に寄り添う光のように

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 ドレスコードに厳しいこのレストランでさえフリーパスで通された、他のどんな礼服よりも動きやすい、もはや俺の戦闘服とさえいえるこのお仕着せをあえて纏ってここにやってきたのは、俺の無言の意思表示でもあった。  一条グループの紋章が刻まれた襟章を意識しながら、俺は真っすぐに目の前に座る女を見据える。 「わたくしは、一条雅様の執事。  帰る場所は、雅様の御許のみ」  かつて自分にここまで気を配った主はいなかった。  己の装飾品として飾り立てた者はいたが、見ていたのは俺の上辺だけで、俺自身のことを思って仕立てられた服など、一着もなかった。  服だけではない。  用意された部屋も、日に三度きっちり用意される食事も、生活を取り巻く人も。  そのどれもが『時任悠』という俺自身を見てくれていて。  今まで『主の装飾品』、いわば所有物の1つとして遇されてきた俺には、それがとても新鮮で、温かくて。
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