この手は繋いだままで

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「あ、起きた」 母の声にゆっくり覚醒していく。 どうやら私はぐっすり寝込んでいたらしい。 「今、牧之原。もうお土産買ったけど、真名もトイレに行ってくる?」 「あ、うん。友達にもお土産買いたいし」 そう答えてから、初めて気が付いた。私の腰から下をすっぽり覆うようにかけられているのは、鷹利くんのカーディガンだ。 「じゃあ、一緒に行こうか」 鷹利くんが静かにそう言ったので、私は頷いてカーディガンを手に車を降りた。 「あの、これ、ありがとう」 鷹利くんにカーディガンを差し出すと、一旦受け取った鷹利くんはそれを私に羽織らせた。 「店の中、冷房効き過ぎてると思うから」 確かに行きに寄ったサービスエリアではそういうところもあった。 「でも、鷹利くんが寒いでしょ?」 半袖の鷹利くんに対して、私は長袖のGジャンにカーディガンまで着ている。 「僕はいいんだ。真名ちゃんは寝起きだから」 鷹利くんは相変わらず優しい。 駐車場にズラッと並んだ車と車の間を進んでいく。 前を歩く鷹利くんはチラチラと振り返って私がついて来ているのを確認しながら進む。 だから、広いところに出てすぐ、私は鷹利くんの隣に並んだ。 男物のカーディガンを羽織って並んで歩いているから、彼女に見えるかななんて思ったりして。 すれ違う若い女性たちが鷹利くんを見ていた。 なんとなくそれが嫌で鷹利くんを見上げると、ん?と優しい微笑みが返ってきた。 「先にトイレに行こうか。この辺で待ってて」 いつも母が父に言うみたいに言った。トイレの前のベンチの辺りを漠然と指さすと鷹利くんが頷いた。 私は早歩きでトイレに向かった。どうしたって女の方が時間がかかる。 あんまり待たせたら鷹利くんは逆ナンされそうだ。 急いでトイレから出ると、待ち合わせの場所に鷹利くんはポツンと立っていてホッとした。 でも、遠目に見た格好も素敵で、鷹利くんに近づくのをためらった。 私とじゃ全然釣り合わない。
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