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「鷹利くんは昔から私のヒーローだよ。優しくて強くてカッコよくて。私は未だにトロくさくて迷惑かけてごめんね。お焼香の時も今も」
足が痺れて鷹利くんにしがみついていたなんて、思い出すだけで恥ずかしくなる。
立ち止まって手を繋いで見つめあっている状態にも居たたまれなくなってきた。
歩き出そうとした私をやんわりと鷹利くんが引き留めた。
「真名ちゃん、好きな人がいるの? 大学の人?」
「え?」
「昨日、奥座敷で夏生が言ってた」
ああ、あれかと思い出して、赤面して俯く。
「あれは……鷹利くんのこと」
「え!?」
「小学生のときのことを未だにからかってくるんだよ」
慌てて言い訳した。私なんかが今の鷹利くんを好きだなんて知られたくない。
幼馴染だから優しくしてもらってるのに。
痛い勘違い女だと思われたくない。
それなのに、鷹利くんの手がそっと私の頭を撫でた。
「今は?」
少し掠れた声。真剣な目に捉えられる。
「僕は……真名ちゃんが好きだ。足が痺れた真名ちゃんを支えるのは自分じゃなくちゃ嫌だと思った」
「私なんてトロくさくて、いいとこなんて一つもないよ?」
「そんなことない。素直で優しくて情が深い。不器用だけど他の人のために労を惜しまないところも変わってない。大学は違うけど、隣の駅だから会おうと思えば毎日会える。僕は毎日、真名ちゃんに会いたいけど、真名ちゃんは?」
「私は……」
急な展開に頭も心もついていけない。
約五年ぶりに再会して、誰だかわからなかったのに、次の日には付き合いたいと思うほど好きになっているなんて。
尻込みしてしまうのは、私が今まで誰ともお付き合いをしたことがないからということもある。
ふと思い出したのは、昔、祖父が言っていた言葉。
聞き上手な兄が無口な祖父から、祖母との馴れ初めを聞き出した時のことだ。
たまたま電車で隣の席に乗り合わせたのが縁だと言っただけで詳しくは教えてくれなかったけど。
「人と人の縁っていうのは不思議なものだぞ? その日その場所に居合わせた縁。言葉を交わした縁。想いが通じた縁。どれが欠けても、おまえたちはこの世にいなかったんだからな」
今、この手を離したら、鷹利くんとのせっかくの縁が切れてしまう。
もう法事で会うこともないかもしれない。
それでいいの?
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