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季節は初夏。そろそろ梅雨も明け、本格的な夏が始まろうというとき。
「ねえカノジョー、俺とお茶でもどう?」
「…………」
ベタな展開が、僕の目の前で繰り広げられている。ここは街中であるし、そんなことはあっておかしくないとは思う。
もっとも、彼の外見はベタでもなんでもなかった。
イケメンなら分かる。雰囲気イケメンでも、まあ分かる。
フツメンでも良しとしよう。
けれど。彼の顔は、ダメだった。何故って?
「ねえねえ、無視しないでよ~」
「…………」
控えめに言って、不細工だった。
そのブサ男の周りに人が近寄らない程度に、不細工だったのだ。
一方、ナンパされている少女は、無視しているものの完全に嫌そうな表情をしている。
正直、助けると面倒なことに巻き込まれそうだし、関わりたくない。
すまない、少女よ。心の中で、少女に謝りつつ、ブサ男の横を通ろうとした。
と、その時。神の悪戯か、それとも運命か何かなのか、つまずいた。
その勢いで、僕はブサ男の横っ腹に頭突きを喰らわせてしまった。
「ぐひゃあ!」
「痛っ……!」
変な声をあげながら、僕とブサ男は倒れこむ。
いくらなんでも、これは謝らなきゃ……!
そう思って、彼の顔を見ると、白目を剥いて気絶していた。
「うわぁ……やってしまった」
とりあえず。
僕は臆病者なので、逃げることにした。
「…………!」
逃げている後ろ姿を、見つめる少女の視線に気づかないまま。
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