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祐二の顔も苦痛に満ちていた。
「上村会長は、仕事に追われ家庭をかえりみなかった。それで叔母が精神に異常をきたしても、何もしてやらなかった。その罪悪感から、上村会長は叔母を捨てることはできなかったんだ。晶子さんも犠牲者の一人だと言っていた」
「ああ・・お父さん」と彩也子がうめくように声を上げた。
池田弁護士が口を開いた。
「主たる相続人は、彩也子さんあなたなんですよ」
「上村会長は、最初からそのつもりだったんだ」と祐二が言った。
晶子は、顔を手でおおうと、苦しげな嗚咽をもらした。
話終えると、祐二は強い疲労を感じ、突然、車椅子から崩れ落ちるように倒れた。
彩也子が悲鳴を上げた。
「祐二さん」
「救急車を呼べ」池田弁護士が大声を上げた。
救急車がすぐ呼ばれると、祐二は病院へと搬送された。
「祐二さん、しっかりして」彩也子は祐二が搬送されるとき、彼に声をかけた。
祐二は意識が遠のいている様子だったが、微かに微笑んだように、彩也子には思えた。
彩也子は泣きながら、彼の乗った救急車が走り去るのを見送った。
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