129人が本棚に入れています
本棚に追加
彼は煙草を吸いながら、よく手入れされた庭の木々を見ていた。そしてこれからのことを考えていた。
上村会長と彩也子の対面が1時間ほどで終わると、祐二は彩也子をアパートに送っていった。
彩也子は後部座席で窓を見ているようだった。
アパートの前で車を止めると、彼が振り向いて言った。
「今日は疲れたでしょう」
「いいえ、大丈夫です」と彼女は微笑んで言った。
「彩也子さん、これからいろいろの事が変わっていくけれど、頑張って下さい」と彼は言った。
二人は車を降りると、向かい合った。
彼女が頭を下げて言った。
「香川さん、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします」
「わかりました」と彼はこたえた。
彼の車が消え去るまで、彼女は見送った。
彼女は幾分涙目をしながら、アパートの階段を上がって行った。
部屋に入ろうとしたときだった。隣に住む鈴木さんという30代の女性が出て来た。
「本橋さん、今の人誰なの、あなたの彼?」と彼女が興味ありげに言った。
「とんでもありません」と彩也子があわてて否定した。
「そうでしょうね。だってカッコいい車に乗っているし、スマートな男性ですもの。おどろいたわよ」
鈴木さんは一瞥するように彩也子を見た。
よく言えば純朴、悪く言えばダサいこの彼女が、あんないい男の恋人になれるわけがない。でもどいう関係?
「誰なの?」と鈴木さんがきいた。
「ちょっとした知り合いです」彩也子は調子悪げにこたえた。
「本橋さん、男には気をつけたほうがいいわよ」と鈴木さんが言った。
「そんな、大丈夫です」彩也子は毅然と言うと、彼女を無視して部屋に入った。
鈴木さんは何なのだろうとポカンとして、彩也子の閉められた部屋のドアを見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!