第3章 父と娘

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彼は煙草を吸いながら、よく手入れされた庭の木々を見ていた。そしてこれからのことを考えていた。 上村会長と彩也子の対面が1時間ほどで終わると、祐二は彩也子をアパートに送っていった。 彩也子は後部座席で窓を見ているようだった。 アパートの前で車を止めると、彼が振り向いて言った。 「今日は疲れたでしょう」 「いいえ、大丈夫です」と彼女は微笑んで言った。 「彩也子さん、これからいろいろの事が変わっていくけれど、頑張って下さい」と彼は言った。 二人は車を降りると、向かい合った。 彼女が頭を下げて言った。 「香川さん、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします」 「わかりました」と彼はこたえた。 彼の車が消え去るまで、彼女は見送った。 彼女は幾分涙目をしながら、アパートの階段を上がって行った。 部屋に入ろうとしたときだった。隣に住む鈴木さんという30代の女性が出て来た。 「本橋さん、今の人誰なの、あなたの彼?」と彼女が興味ありげに言った。 「とんでもありません」と彩也子があわてて否定した。 「そうでしょうね。だってカッコいい車に乗っているし、スマートな男性ですもの。おどろいたわよ」 鈴木さんは一瞥するように彩也子を見た。 よく言えば純朴、悪く言えばダサいこの彼女が、あんないい男の恋人になれるわけがない。でもどいう関係? 「誰なの?」と鈴木さんがきいた。 「ちょっとした知り合いです」彩也子は調子悪げにこたえた。 「本橋さん、男には気をつけたほうがいいわよ」と鈴木さんが言った。 「そんな、大丈夫です」彩也子は毅然と言うと、彼女を無視して部屋に入った。 鈴木さんは何なのだろうとポカンとして、彩也子の閉められた部屋のドアを見ていた。
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