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祐二は、上村会長の指示に従い、彩也子のためにマンションを購入した。
晶子の手前もあり、会長宅には彩也子を住まわせるわけにはいかないからである。
そのマンションに、祐二は彩也子を連れて来た。
2LDKだが、かなり広く、近くに散歩できる公園もある。
「これが、私のためのマンションですか」と彼女は、幾分驚いたようだった。
これまでの古いアパートに比べたら、彼女にとってはとてつもない高価な住まいだった。
「なんだか、私にはふさわしくない気もするわ」と彼女は言った。
「そんなことないですよ。上村ホールディングスの会長の娘であるあなたには、質素なくらいですよ」と祐二が言った。
そうなのか。と思う反面、今までの母との暮らしを思い出すと、死んだ母が哀れであると感じていた。
そのためか、心から喜ぶ気持ちにはなれないのだった。
彩也子のさえない顔を見て祐二が言った。
「気にいりませんか?」
「そうじゃないんです。ただ、私がこんな生活するのは、ふさわしいのかなと思うんです」
祐二は、彩也子は謙虚な人なんだと思った。
「ふさわしいですよ。そんなに考えなくていいですよ」
彼は彼女の顔を見て言った。
「大丈夫、すぐに慣れてきますよ」
「香川さん、聞きたいことがあるけれど、いいですか」と彩也子があらたまるようにして言った。
「何ですか」と祐二が言った。
「私にはお姉さんがいるのですか?弁護士さんから聞いたのですけれど」
「ああ、晶子さんのことですか」
彩也子は気まずそうに言った。
「お姉さんは、私のこといい感情を持っていないのですね」
祐二は何と答えればいいのか考えた。
「まあ、晶子さんはプライドが高い人ですからね。でも、そのうち彼女も彩也子さんのこと、理解できるようになると思います」
「香川さんは、お姉さんのことよく知っているみたいですね」と彩也子が言った。
「従姉ですからね」
言った瞬間、祐二はしまったと思った。
「従姉?香川さん身内だったの?」と彼女は聞き返した。
祐二は返事が返せなかった。
「父方の?」
「もしかして、奥様の・・」と彩也子が言った。
祐二は躊躇したが、重たい口を開いた。
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