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「それって、本当の話なの」上村晶子は悲鳴に近い声を上げた。
「事実です」と祐二は言った。
上村晶子の邸宅の応接室で、晶子夫婦と香川祐二が向かい合って座っている。
「かたりじゃやないのかい。お父さんは騙されているんだよ」と夫の謙一が、苦々しく言った。
「今のところ、本橋彩也子さんは間違いなく、上村会長の娘です」と祐二が言った。
「でも、調べてみないとはっきり言えないだろう」と謙一が言った。
「ええ、その段取りもしています。でも、それではっきりしたら彩也子さんのことは認めないわけにはいかないでしょう」と祐二は言った。
晶子夫婦は沈痛な面持ちで、しばらく黙っていた。
「お金で話は片付けられないの?」と晶子が言った。
「上村会長は・・きちんと彩也子さんを認めたい意向なんです」と祐二は言った。
「ばかを言わないで、母が死んだとたんになによ。お父様にかぎってこんなことないと思っていたのに」と晶子が怒りをこめて言った。
「祐二さん、あなただって腹がたつでしょう。母の気持ちを思えば」
母の智子に似た端正な顔立ちの晶子の言う言葉は、智子からの声のように祐二には聞こえた。
祐二は硬い表情をして黙っていた。
「祐二さん、あなたどっちの味方なの」と晶子が憮然として言った。
「僕は誰の味方でもありません」と祐二は冷静にこたえた。
「まあ、この件は簡単にはいかない。会社の未来がかかっているからね」と謙一が言った。
晶子の邸宅を後にして、祐二は車を運転しながら考えていた。当分、彩也子のことは波乱含みである。だが、あの心細げな彼女は、いずれは上村ホールディングスに多大な影響を及ぼすことになるのかもしれないのだ。
「検査の結果がでました」と祐二が言った。
「それでどうだった?」と上村会長が言った。
「間違いなく、彩也子さんは会長の娘です」と祐二が言った。
「そうだろう」と上村会長がほっとした表情をして言った。
その日は快晴で、会長室から見えるビル群は、ガラスの谷間のように輝いていた。
「彩也子さんは上村会長に会いたいと言っています」
「そうか・・ぜひそうしよう」と上村会長が感慨深げに言った。
「いろいろのことをすすめてもよろしいのですね」と祐二が言った。
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