扉のむこう

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 お世話といっても、たまに立ち話をする程度だ。一回につき五分も話していない。 あいさつと天気、その他とりとめのないどうでもいいような世間話。僕らはお客さんに、金銭のやりとりもサービスらしいサービスもしない。  数奇屋のお客さんたちは、性別、年齢、外見、おそらく国籍もばらばらで、だいたい一人で訪れてくる。  みんな無口、無表情で、僕らから声をかけても、戻ってくるのは会釈ぐらい。  ほとんどのお客さんが、僕らにはなにも告げず、はじめから持っているカギで自分の部屋? へと入ってゆく。  バイトの日になると僕らは学校帰りに一緒に数奇屋を訪れる。  玄関のドアは閉まっているから、御園さんが渡されているカギで開錠し、中に入る。あとは決められた時間まで四~五時間、基本的に一階の受付にいるだけだ。  時間になると、僕らは帰る。帰る時には、御園さんがまたカギをかけてゆく。
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