扉のむこう

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 数奇屋内にお客さんがいようがいまいが僕らの行動に変更はない。  僕らが来る前から中にはお客さんがいて、僕らが帰ろうと関係なく数奇屋の中で過ごしている人がいる、なんてのは普通だ。    お客さんとは、たまには顔を合わすし、ごくごくまれにむこうが望めば話もするけど、僕はこれまで一度も数奇屋のスタッフとも、経営者とも会ったことがない。  御園さんは、数奇屋のオーナーと知り合いで、このバイトを頼まれたらしいけど、くわしい事情は話してくれない。  僕の場合、給料の受け渡しも仕事の指示も、常に御園さん経由だ。  数奇屋ですごす時間は、夢の中にいる気がするくらい現実感がない。  少なくとも僕には。  他人の夢の中に、登場人物の一人として迷い込んでしまって、その人が起きて、この夢がさめまで世界に変化は訪れない。  そんな、説明の難しい不可解な状態。
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