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ほとんどのお客さんが自分の部屋から出て来ることがないため、一階から三階までどこも数奇屋の廊下は、いつも静かだ。
僕は階段を上ってまず三階へむかう。
三階についておよそ十数メートルの直線の廊下を二往復したが、誰ともすれ違わない。人はおらず、気配さえしなかった。
次は二階か。
と、僕が階段へむかいかけた時、ドンと、なにか重い物を床の落としたような衝撃音が響いた。
足をとめて、周囲を見回す。
誰も部屋から出てきたりはしない。
一瞬前とくらべて廊下の状況に変化はなかった。
しばらく待って、このままなら、いまの音は聞かなかったことにして行ってしまおうかな。
僕の気持ちを読んだかのごとく、すぐに二回目がきた。
今度は、さらに大きなドンの後、重さに耐えきれずに、床が軋んだような音も、ギリッ。
首をめぐらせて左右を眺めても、廊下は相変わらず平和だ。
音のでどころは、廊下ではないのだから、この階のどこかの部屋の中なのは間違いない。
とりあえず、僕は音が聞こえた気がする方へ歩いた。
たしか、こっちから。
どの部屋のドアもまだ開かない。
お客さんたちは、あの音を聞いても不審に思わないのか?
みんな耳栓をして熟睡しきってるわけでもないだろうに。
静寂を破るカン高い絶叫。悲鳴が響き渡る。おそらく女性の。
それこそホラー映画の中で耳にするようなタイプの声がした。
「大丈夫ですかッ!!」
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