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背中も頭も体のあちこちが痛い。
けど、だけど、一人で逃げるわけには、御園さん、それに他のお客さんたちも。
「ダレカ、タスケテ!!」
お客さんが怒鳴っている。
そうだ。まずは、目の前にいるこの人を助けないと。
正義感なのか、仕事の義務感なのかわからないが、混乱した頭のまま、僕はどうにか這いずって開けっ放しのドアへと近付く。
ずるっ。ずるっ。
ずるっ。ずるっ。
「ボーイさん。あなた、大丈夫ですか」
床を這っている僕が今度は跳ね返されずに、体の半分を室内へ入れられた時、僕に声をかけ、体を抱き起してくれたのは、室内にいた女性だった。
ついさっきまで助けを求めていた声で、僕の安否を尋ねてくる。
あれ。
助けを求めてたのは、この人じゃ。
「僕は、あの、お客さんは、で、悲鳴と、あの、音はいったい」
お客さんに支えられて、どうにか椅子に座って、僕は室内を見まわした。
いま、室内にいるのは、僕と二十代くらいの女性の二人。
彼女はみたところケガなどはどこもしていないようだ。ショートカットで、地味めのスーツを着た、日本人の普通のOLさんにみえる。
ただ、おかしいのは。あきらかに異常な点は。
この部屋だ。
大きめのベットが置かれたこの客室の壁、床、天井は、まるでここで建物粉砕用の巨大な鉄球を振り回したかのごとく、ボロボロになっていた。
ヒビ割れと凹みだらけだ。
いつ崩壊してもおかしくないくらい壊されている。
なのに、ベットと彼女は無傷だった。
「ここで、なにが、あったんですか?」
「誰か、助けて」
僕の質問に、彼女は遠くを眺める視線でつぶやいた。
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