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亡霊警官
目の前は真っ暗だ。目隠しをされている。野々村は恐怖から小便をチビりそうだった。
「外して構わないですよ」
多喜の声が突然したのでビックリした。
幽霊なんてものを今まで信じたことがなかったが、本当はいるのかも知れない。
多喜は太宰からのパワハラに耐えかね自殺したはずだった。それがゾンビみたく蘇った。
目隠しを外した。ランタンの光に目が眩んだ。
神経質そうな顔で、拳銃を向けている。
リボルバー式だ。レンコンの形をしたシリンダーが特徴的だ。
「どういうことだ?あっ、あんた潜入捜査官か?」
確か、覆面のナンバーは千葉だったはず。千葉県警の刑事?そいつが何故、管轄外の宇都宮に?
「まぁ、そんなところですよ。キメラは実に面白い会社です」
口調は柔らかいが、視線は加虐的だ。
「あなたも可哀想な人ですよね?馬鹿な議員のせいで…」鼻で笑いながら、睨みつけてくる。「おかげで私にも飛び火しましたが、クッ」
野々村は己の不幸さ加減に思わず笑った。
「何で、俺なんだ?殺る相手が違うだろ!?」
「エアーデに入ったんですって?殺人三昧で、さぞや愉しいことでしょう?」
銃口を野々村の額に宛がい、子猫を撫でるように微笑む。太宰が小悪魔に思えるほど恐かった。
「太宰を殺しちゃくれませんかね?」
多喜は、己の悲劇的な人生を淡々と語った。
「私ね、母子家庭に育ったんですよ。西成って分かりますか?」
西成は大阪にあるスラム街だ。ネットで知ったことだが、自閉症のラッパーが確かここの出身だ。
「母は風俗嬢でね、強烈だったなぁ…あの、匂いは」男をアパートに連れ込み、セックスをする。部屋のなかは青臭い匂いが充満していたらしい。
「その男が太宰だった?」
「ご名答、太宰は死んだ父親の秘密を知っていた」
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