稲毛ストリート

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稲毛ストリート

 野々村は京成稲毛駅にやってきた。せんげん通りをテクテク歩いた。火の見櫓が印象的だ。  濃茶生クリームロールがとってもうまい。 『子供ってのは前頭葉が未熟なのさ、だから君みたいなのは欲求を止めることが出来ないんだ』  キメラにいたときに太宰って先輩に言われた。 『人間失格だよ』  私語なんかしようものなら太宰に肩パンされるし、私語を禁止にすることは法律違反なのだが、基幹産業という圧力に屈するしかなかった。  故郷は高知だ。才谷屋っていう金貸し屋で父親は働いている。  ガラケーが鳴った。電話代が馬鹿に高い。家電だけで十分だ。これを機会に節約しようかな? 《あれ、珍しいね?まだ、12時前だけど…》  莉菜に言われてハッとする。まだ、11時49分だった。この時間は梱包とか結束でバタバタしてる頃だ。どうやって言い訳しよう。 「あぁ、機械の調子が悪くてね」  我ながら上出来だ。嘘は大嫌いだ。 《そっか、日曜は?》 「だから会議だって」 《会議に何時間もかかるの?夕方とかは?》  人間関係で辞めただなんて言えるわけがない。  エアーデに入って本当によかった。給料はいいし、社員旅行はあるし、人は殺せるし。 「社員旅行なんだよ」《え~?どこに行くの?》 「おっ、沖縄」 《いいな~、お土産買ってきてよ》 「あっ、うん。チンスコウでいいかな?」 《あれ甘いからな~、固いしねぇ》  10分以内なら無料だ。馬鹿な話で電話代かけたくねぇんだよ。莉菜はパパに寄生しているから、バカバカ掛けてくる。まぁ、妻よりはマシだけど。  家事はしない、飯は食う、エンゲル係数は増やす。ガキの新兵衛にだって金がかかる。  9.56……アカンで!タイムリミットや! 「悪い、もう切るね?」  通話を終了した。あぶねーあぶねー。  莉菜にもそろそろ飽きたな?孕まないうちに捨てた方がいいかもな。 「稲毛、鼻毛、脇毛」  連呼しながら歩いていると、覆面パトカーが目の前に停まった。  助手席から降りてきたのは野々村のよく知っている男だった。「久しぶりですね?野々村先生」
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