第1章

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アンカレッジからの搭乗客は多くなかった。 欧州便など長距離路線の給油で立ち寄るケースが多く、ここから新たに客を迎えるのは珍しい。 珍しくてもそうでなくても、おいそれと忘れられるものではないわ。 秋良は給油で一旦降機した乗客を迎え入れながら思った。 あんまりじろじろと他人を上から下まで見てはならない。客ならなおさら。 けど、無理な話だった。 この日の成田空港へ向かう機内はガラ空きで、エコノミー席はアームレストを上に上げて簡易ベッド状態にして眠る客も続出した。 そんなわけだから、アッパークラスも閑古鳥が鳴いていた。 お客様はたった1人。少しばかり楽ができていいはずなのに、注目しすぎてしまい、困った。 ここは、あえて見ないより堂々としてた方がいいんだわ。 ミールサービスを終えてトレイを下げた時、秋良は声をかけた。 「かわいいですね」 声をかけたのは客に対してだが、かわいい対象は客ではない。 隣のシートにでーんと鎮座する、白黒のコントラストも見事なシャチのでっかいぬいぐるみ。それに対してだ。 少し前、海外旅行が珍しく、世界的に有名すぎるアミューズメントパークがまだ日本で開業していなかった頃、子供の大きさぐらいは優にあるぬいぐるみを、いくつも抱えて愛しそうに乗り込む女子学生はざらにいたが、そのぬいぐるみ以上のインパクトを醸している。 乗客の、特に肩書きや称号のある人物のプロフィールはなるべく頭にいれるようにしている。 著名な学者だという話だ。が、分野まで詳しく聞くのを忘れていた。 ぬいぐるみを携えたこの人が誰か、私の代わりに知ってる人がいるはず。おしえてもらおう。
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