【それぞれの心】

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健吾は目を開き、それから口の端を歪めて笑った。 顔をあげたくないのか、視線はメモから逸らさない。 「ほんと、お前のそういったところがムカつくんだよ」 「知らねーよ。 お前、絶対に美月に連絡しろよ」 強く念を押して、浩二は腕時計に目を落とした。 時刻は午後8時前。 今からタクシーを呼んで、駅に戻らないといけない。 「どこ行くんだよ」 まだ土手に座ったままの状態で、健吾が尋ねた。 その声に混じりけはなく、浩二は内心ほっとした。これだときっと、健吾はこの後美月に連絡する。 「瑞希を探しに」 遠くで車が通りかかり、浩二はヘッドライトのまぶしさに目を眇めた。 「ミズキ?」 「そう。今すぐ彼女に会いたいから」 そう言って、浩二は虫の声がする土手を駆け上がる。 後ろで健吾が立ち上がったような気がしたけれど、浩二は振り返らなかった。
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