1411人が本棚に入れています
本棚に追加
健吾は目を開き、それから口の端を歪めて笑った。
顔をあげたくないのか、視線はメモから逸らさない。
「ほんと、お前のそういったところがムカつくんだよ」
「知らねーよ。
お前、絶対に美月に連絡しろよ」
強く念を押して、浩二は腕時計に目を落とした。
時刻は午後8時前。
今からタクシーを呼んで、駅に戻らないといけない。
「どこ行くんだよ」
まだ土手に座ったままの状態で、健吾が尋ねた。
その声に混じりけはなく、浩二は内心ほっとした。これだときっと、健吾はこの後美月に連絡する。
「瑞希を探しに」
遠くで車が通りかかり、浩二はヘッドライトのまぶしさに目を眇めた。
「ミズキ?」
「そう。今すぐ彼女に会いたいから」
そう言って、浩二は虫の声がする土手を駆け上がる。
後ろで健吾が立ち上がったような気がしたけれど、浩二は振り返らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!