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しばしの間、どちらも声を発しなかった。
言いたいことはたくさんある。
だけどいざ言葉にしようと思うと、なにから切り出すのが正しいのかわからなかった。
代わりに浩二は一歩、また一歩と健吾に近付く。
その度に心臓が大きく音を立てて、胸が苦しくなった。
「健吾」
もう一度名を呼んだのは無意識だった。
「なにやってんだよ。こんなところで」
土の匂い、草の匂い、虫の声、風のざわめき。
昔となにひとつ変わらない。ここは昔、健吾と走り回ったままだ。
健吾は小さく笑った。空を仰ぐ横顔に、薄い影ができる。
「ちょっと休憩中。
久々だったよ。ここから空見上げて、一日ぼんやりしたの」
目を眇めて、暮れた空を見あげる健吾を、浩二は身じろぎせず見つめた。
頭の中に浮かんでは消える言葉を、必死にかき集めていた。
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