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「美月、お前のとこに来た?」
さらりとした口調で、先に口を開いたのは健吾だった。
それがあまりにも軽くて自然だから、一瞬浩二はなにも考えずに頷きそうになった。
けれど同時に美月の泣き顔を思い出す。
美月の泣き顔、実家のテーブルの上に広げられた、健吾の手紙と離婚届。
それを沈痛な面持ちで眺める父や母と、その時の心境が、でたらめに浩二の中を駆け巡った。
「……来たよ、ものすごく泣いてた」
語気を強くしたかった。けれどどうしてだかうまくいかなかった。
健吾は空から目を外し、浩二にゆっくり視線を移す。
さっきと似た、いたずらっぽい目だった。
「うれしかっただろ、美月が自分の元に来て。
お前ずっと、美月が好きだったんだから」
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