1411人が本棚に入れています
本棚に追加
彼の声に、揶揄はもうなかった。
湿気のある風が吹き、ふたりの頭上で葉がざわめく。
「……俺に言えばいいだろ。瑞希じゃなく、俺に……」
胸ぐらを掴む手に力がこもる。健吾は「そのつもりだったよ」と目を細めた。
「けどお前を待っている間に、偶然ミズキが先に出てきたから、ちょうどいいと思った。
浩二の隣に別の女がいたら邪魔だし、あの女が傷ついて、お前のもとを去るなら好都合だったから」
健吾がそう口にした直後、鈍い音がした。
気付いた時には浩二の右手が強く痛んで、健吾は土手に倒れ込む。
浩二は彼を見下ろしてから、健吾を殴ったことに気付いた。
衝動で息があがる。
健吾は左頬をぬぐい、肩で息をする浩二を一瞥した。
最初のコメントを投稿しよう!