【それぞれの心】

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彼の声に、揶揄はもうなかった。 湿気のある風が吹き、ふたりの頭上で葉がざわめく。 「……俺に言えばいいだろ。瑞希じゃなく、俺に……」 胸ぐらを掴む手に力がこもる。健吾は「そのつもりだったよ」と目を細めた。 「けどお前を待っている間に、偶然ミズキが先に出てきたから、ちょうどいいと思った。 浩二の隣に別の女がいたら邪魔だし、あの女が傷ついて、お前のもとを去るなら好都合だったから」 健吾がそう口にした直後、鈍い音がした。 気付いた時には浩二の右手が強く痛んで、健吾は土手に倒れ込む。 浩二は彼を見下ろしてから、健吾を殴ったことに気付いた。 衝動で息があがる。 健吾は左頬をぬぐい、肩で息をする浩二を一瞥した。
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