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不意に蘇った幼い日の記憶に、胸温められてほっこりと笑う。
僕は、いわゆるいじめられッ子だった。
母親が日本人で、父親はヨーロッパ系の人だったらしい。僕は会ったことがないから、知らない。
出会いの馴れ初めや、僕を産むに至った話なんかを、詳しく聞いたこともない。
男のくせに、肌は真っ白。焼いても真っ赤になるだけで、しばらくしたら、また白に戻る。
髪の毛だって、色素の薄い茶色。
目の色は辛うじて黒だけど、見比べるとどうしても薄い。
幼稚園の頃からずっと、容姿と家庭環境を理由に、いじめられてきた。──過去形にするのは、語弊がある。高校生になった今でも、いじめられている。
もう、慣れっこだった。
幼稚園にいた頃は、家が近所の彰ちゃんが、僕が苛められているのを見つけるたびに、割って入ってくれた。
彰ちゃん自身は、腕っぷしが強かった訳じゃないけど。
心の、強い子だった。
真っ直ぐで、勇敢で。
僕にとっては、正義のヒーローだった。
困った時に飛んできてくれる。
一緒になって地面に転がされたって、何度転がされても負けずに立ち上がる彰ちゃんが隣にいてくれるだけで、僕は心から救われていた。
泥だらけになっても、擦り傷が痛くても。
「タケル、だいじょうぶか?」
「──うん、へいき」
彰ちゃんが笑って手を借してくれたら、それだけで救われたんだ。
小学校に上がって、中学生になっても、僕はずっと、こっそりいじめられていた。
大っぴらに何か言われたり、されたりする訳じゃない。
陰でこそこそ、みんなが遠巻きに僕を眺めながら、何か喋ってる。
なのに、僕が近付くと話すのをやめて、散っていく。
──僕は、ここにいるのにいなくて、だけど誰よりも強い存在感で、そこにいた。
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