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僕はただ静かに息を潜めていた。
目立たないように。
表面化しない苛めは、彰ちゃんにも気付かれないまま、密やかに続いたけれど。
友達が増えて、クラスの人気者になった彰ちゃんは、それでもいつも、僕のことを気に掛けてくれていた。
登下校で顔を会わせるたびに、元気かと聞いてくれて。
移動教室なんかですれ違うたびに、にっこり笑ってくれた。
それだけのことで、僕の心は救われて。
僕は、ちゃんと存在しているんだと安心できた。
大丈夫。痛いことされる訳じゃない。
物が失くなる訳でもない。
何もされない。──何も、されないのだから。
大丈夫、大丈夫。そう言い聞かせて乗りきれた頃は、まだ良かった。
彰ちゃんが近くにいるという事実に、僕は守られていた。
──だけど。
僕と彰ちゃんが選んだ高校は、別々だったから。
僕はずっと、独りぼっちで耐えるしかなくなってしまった。
そっと息を吐いて、そっと息を吸う。
それだけのことにすら、気を遣った。
無駄に伸びてしまった背。
顔だってハーフ特有のそれなりの顔になってしまったから、女子からは無駄に好かれて。そのせいで、余計に男子から絡まれるようになった。
惚れた腫れたは、小中学生よりも高校生の方が敏感だ。
自分を道化に堕とすスキルすら持ってない僕は、女子から告白されるたびに増えてく痣を、隠すことしか出来なくて。
もう、学校なんか行かなくてもいいんじゃないかと思うのに。
僕は毎日、馬鹿正直に、学校へ向かう電車に乗っていた。
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