第1章

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 ……この家にも鯉幟(こいのぼり)か。  俺は新聞を投函しながら天に伸びる鯉幟を見た。すらっとした形をしているそれは気持ちよく空を泳いでいた。  毎年、鯉幟をする家は大体決まっている。駐車場からはみ出した車があれば、そこには大体鯉幟があるのだ。きっと子供がGWで孫を見せに帰ってくるのだろう。  俺は鯉ではなく鮭にでもしたらいいのに、と思いながら春用のワインレッド柄のフェイスマスクをした。ここ北九州ではPM2.5が発生するため、空気が悪い。黄砂までくればお手上げだ。  ……そうか、今日で5年目か。  俺は鯉幟を見て彼女と結婚したことを思い出した。彼女との出会いもGWで、その最後の日である子供の日に俺達は付き合い始めたのだ。  ……こいつも今日で見納めだな。  俺は溜息をつきながら鯉幟を見た。俺の家には鯉幟は存在しない、子供がいないからだ。それはセックスレスではなくてお互いに欠陥があるからだ。  ……子供の日に、子供ができない家族が誕生するなんて皮肉なもんだ。
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