第1章

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 俺は今でもプロポーズをしたことを後悔している。先に検査をしていればこんな日々は始まらなかった。だがそんなことをして結婚する奴の方が少ないだろう。だから俺は今日の日を恋人のいないクリスマスくらいには憎んでいる。  ……とりあえず仕事をかたそう。  風を泳ぐようにバイクのスピードを上げる。投函先の庭にあるジャスミンの強い香りが夏の始まりを感じさせ、俺の沈んだ心を浮き立たせる。この時期がバイク乗りとしては一番気持ちがいい。夏は照り返しで熱すぎるし、秋を越せばひたすら寒さに耐えるだけの日々だ。  しかしそれもほとんどなくなった。バイクでの配達はバイトがまかなってくれて、俺は中継地点に大量の新聞を預けるだけでいいのだ。今日はなぜバイクに乗っているかというと、バイトの大学生がGWということもあって実家に帰っている。  俺はアパートの前で大量の新聞を担ぎ登っていく。最近では新聞は減ってきているが、やはり頼んでくれる人もたくさんいる。それは一重に親が子供に新聞を読んで欲しいという親心にある。学生がきちんと読んでいるかは不明だが、親はそれで満足するのだから、うちの家計はそれで助かっている。 「あ、野良猫」
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