第1章

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 俺は呟きそいつを見た。この付近の猫は人懐っこく、バイクで走ってるくらいではどかないのだ。まるでそれがきちんと止まってくれるとわかっているように。  ……あいつもうちに来て8年か。  俺は家に住んでいるランを想像した。こいつの名づけ親は友人だ。あの頃は毎朝、新聞を配達しており、その途中で出会ったのだ。今でもそいつは家に住み着いており、適当に外に出て適当に家で飯を食う。俺のフェイスマスクの中で寝転ぶこともあれば、彼女の膝元で寝ることもある。  ……そういえばこんな晴れた日だったな。  俺は昔使っていたフェイスマスクを思い出しながらエンゲージ(婚約)・リングを眺めた。  俺達の出会いはフリーマーケットだった。友人に誘われ、その場に行くと彼女は大人向けのタペストリーを売っていた。ゴールデンウィークだというのに、子供受けの悪そうな商品ばかりだった。俺は気になって彼女を見ると、彼女は気恥ずかしそうにそっぽを向いた。  それが気まぐれな俺の心に火がついた。
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