第1章

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 それが今ではお互いに子供など存在しないものとしてその話題には触れていない。 「ねえ、今度はどこに行きたい?」  麻美は朝食のトーストを齧りながらいった。  俺達の話題はもっぱら旅行だった。子供がいないため、蓄えはある。彼女のタペストリーもいい小遣いになり俺達は周りの家庭よりも裕福だった。何より親戚付き合いが辛いため、出掛けた方が都合がいい。 「そうだな、もう近場は大体行ったしな」  俺は曖昧に答えた。新聞配達があるため、俺達の旅行に泊まりは無理だ。だからこそ俺達はツーリングをしたり、雨の日はドライブをしたり、身近な所で済ませていた。 「休みを取ってもいいんじゃない?少しだけ遠くに行こうよ」  俺も彼女とここではないどこかへ出かけたかった。自分を知らない人間に出会い、自分を忘れ、一人の男として自分の存在を認めて貰える場所に。 「どうしたんだ、急に?」  俺は彼女が入れてくれた紅茶を飲みながらいった。我が家はパンで始まり、パンで終わる。日常にまで日本の生活を忘れるよう取り繕われているのだ。我が家には湯のみなどない、あるのはティーカップのみだ。
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