第1章

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     十分前  俺は今、一人で近所をぶらぶらとしていた。  家にいたって至って暇なのだ。暇すぎて死にそうなのだ。と、まぁ、何もやることは無いので、気の向くまま俺は歩いていた。  時間は正午過ぎだった。だからだろう。昼の繁華街を歩いてみるとレストランや喫茶店等では有象無象の人で溢れ返っている。なかには並んでいる者も見受けられた。    さて、これからどうしようか。  本当に何も考えず外に出たのでやることがない。  そんな、ぬらりくらりと意味も無く歩いている時だった。  ビルとビルの間に一つの裏道を発見した。  この発見は非常に喜ばしい。ちょうど何をしようか迷っている時だったのだから、これは行くしか無いだろう。  妙な好奇心を自分で煽りながらも、俺は鼻唄混じりに気分を上昇させながら、足を裏道に進めた。  少し、歩いてみたが、なんだか裏道と言うのは新鮮な場所だった。  太陽の光は薄く閉ざし、下のアスファルトやレンガや土などのハチャメチャな地面など、全てがまるで地下にいると錯覚させるような物ばかりだ。  たまに見かける猫も、稼働中の送風機も、全てが全て、レトロだった。  そんな世界観の中、もっと面白い物を俺は見つけてしまった。  なんと店があったのだ。ちゃんと看板もついてある。  その看板には「怪しい骨董店」と、グニャリクニャリとした字で書かれていた。  俺は好奇心の赴くままに、その店の中へと入ってみた。  中は外より薄暗く、と言うより、ろうそくが所々に立っているだけなので、ろうそく火がゆらゆらと光を灯していた。   「何か、お求めかい?」  不意にしゃがれた声が聞こえたので俺は少しおののいた。しかし、声の主はすぐに店主だなと理解し、俺は「いえ、ちょっと気になったので」と無難に返した。 「なに、ではお薦めの商品を紹介しようかね?」 「そうですね、お願いします」  俺がそう言うと、老婆はにこりと笑みを浮かべ、すぐちかくの戸棚からある一つの赤木箱を俺の目の前へと出してきた。 「これは、なんです?」 「これは、てりょぉっっぽ..! .........いやー、すまんすまん、この年にもなると入れ歯が安定しなくてね」  お婆さんはきゅこきゅことずれた入れ歯を右手で入れ直しがら喋った。  俺は苦笑いを浮かべるしかない。
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