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ああ、今日も目覚めが清々しい。早く職場に向かいたくてたまらない気分だ。
これまでの自分が嘘のように心が平安に満ちている。
今まで詰り、嘲り、背いてきた人達に、心の底から謝りたい。そして償った俺を皆に受け入れてほしいと、そう思う。
禊を終えたら外に出よう。生まれ変わった俺を世界に知ってもらうんだ。
気持ちが喜びに蕩ける。
体すら、穏やかで温かな感触に溺れるようだ。
…ああ、今、俺はたまらなく幸せだ。
* * *
「亡くなってたのは、この部屋の住人の会社員、--さん(29)…間違いないか?」
「はい、間違いありません。会社に確認も取れてます」
「一週間前から無断欠席が続き、連絡が一切取れない。だから大家に部屋を窺ってもらったところ、この状態の遺体が発見された、と」
「調べではそういう話ですが…この遺体、亡くなって一週間には見えませんよね」
「ああ、今の情報がなかったら、一月以上は放置された餓死死体としか思わないだろうな」
「一週間でこの状態って、どう考えても尋常じゃないですよ。やっぱり何かの事件に関与してるんでしょうか」
「それを調べるのが俺達の仕事だ。まずは徹底的にこの部屋を調べるぞ!」
「はい! まずはこの、遺体の側に落ちてた、卵の殻に色を塗ったような破片と、遺体にやたらと付着している、爬虫類のものっぽい鱗を鑑識に回しますね」
「そうだな。後はこっちの、床に若干残ってる、何かが這いずったような痕跡の鑑定も必須だろう」
「手掛かりは多そうですけど、妙な物が多い感じですね」
「ああ。てこずる事件になりそうだ」
幸福の卵…完
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