第3章

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――アルス暦8年 5月16日―― まさか中級騎士になって1年の俺がカトリーナ・ノーデンと試合をしてもらえるなんて想像もしていなかった。 けれどこれはまたとないチャンスだ。 この国の頂点に君臨する聖騎士と俺の距離を、さらに言えば勇者王との差を実感する絶好の機会とも捉えることができる。 トウヤ(2か月後の武闘大会で推し量れればと思っていたけど、まさか向こうが用意してくれるなんてな) 年に一度、王都で大々的に開かれる武闘大会というものがある。 参加資格は2つ。 騎士であることと、階級を持っていること。 参加は自由で、その日の朝に申告すればよい。 大会は2日に渡って行われ、初日は下級と中級騎士がそれぞれ別に競い合う。 2日目は上級騎士と騎士長が同じ予選、トーナメントで凌ぎを削ることになっている。 その関係で、武闘大会は2日目の方が盛り上がる傾向にある。 トウヤ(去年は出られなかったから、今年こそは勝ってやる) そう。 俺は去年の大会に不参加だった。 体調が悪かったわけでも、怪我をしていたわけでもない。 理由は大会の前日に故郷にいる妹から手紙をもらったからだ。 内容は簡単。 『母の病状が悪化したので、お医者様を連れて帰郷して下さい』 俺はなけなしのお金を払って王都の医者と共に故郷に帰った。 幸いにして大事には至らなかった。 しかし久しぶりに見た母は、以前よりやつれていた。 そんな姿を見て俺は、もう何度目か分からない王都への引っ越しを母に提案した。 結局最後まで、首を縦に振ってもらうことはできなかったが…
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