第3章

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模擬戦が始まってからノーデン先生がずっと立っていた位置には、フィリーネの姿があった。 おそらくこの試合の審判を買って出たのだろう。 俺が答えてから間もなく、フィリーネが試合開始を宣言しようとしていた。 フィリーネ「両者準備が整っているようですので、位置についてください」 試合開始前の『位置につく』という言葉。 階級が低いものほど蔑ろにしがちだが、実はとても重要な時間である。 構えを取るのは言わずもがな、魔力を高めておくのもこのタイミングだ。 試合への意気込みを込める最後の瞬間でもあり、そして何より重要なのは最初の行動を自分の中で決定する最後の時間が与えられたもの。 それが『位置につく』ということである。 ぶわっと魔力が噴き出した。 敵を威圧するプレッシャーと共に湧き上がる強大な魔力の発生場所はもちろんノーデン様。 その圧倒的なプレッシャーに思わず後ずさってしまう。 いや、俺はまだいい方だ。 さっきまで素振りをしていた者たちが素振りを止めてこちらを注目している。 近くにいた者は中級騎士を除いて尻もちをついている。 立っている中級騎士たちも例外なく苦しそうで、ノーデン様に気圧されてしまっている。 相対している俺へのプレッシャーは特別凄まじかった。 心臓を握られているような、そんな錯覚を抱かせるほどだ。 なんとか気を取り直して後ろに下がった左足を1歩前に出す。 トウヤ「フィーネ、始めろ」 自分でも驚くほど無機質な声が出た。 しかしそんなことはこの試合の前では些細なこと。 フィリーネ「……始め」 後で聞いた話だけど、この時の俺は嬉しそうに笑っていたらしい。
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