プロローグ

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産まれてから3ヶ月くらい経った。 首と腰が座ってきた。 成長するにしてはちょっと早くないか? そう思ったが実際に尻をベビーベッドにつきながら座り込んでいる赤子がいる。 と言ってもまだベビーベッドの外には出してもらえていないのだが。 それでも俺のいる部屋の様子くらいはちゃんとわかった。 四畳半くらいの小さな部屋で、窓と暖炉が一つずつ。 暖炉の脇には網掛けの洋服がロッキングチェアにかけてある。 あ、やっぱり来たか。 「アル!おはよう!────」 快活にカラカラと笑う幼い少女は、ノックもせずに扉をあけて部屋へ飛び込んできた。 年の頃は5歳くらいか。 毎日のように俺のもとに来ては、よく分からない事を楽しそうに話して帰っていくだけだが。 こう毎日こられて笑いかけられては嫌な気はしない。 言葉も分からないし話すこともまだできないから、相槌をうつくらいしかできないのだが。 ちなみに俺の名前は『アルス』と言うらしい。 何故か彼女は「アル」と呼んでくるのたが。 また、彼女が自分の事を『アルフィ』と呼んでいることから、彼女の名前は『アルフィ』なのだろう。 ハイテンションで語りかけてくるアルフィを見ながら、そうかそうかと頷いてみるも、 彼女はあまり気にしていないらしい。 まあ生後3ヶ月の赤ちゃんが言葉を理解してたら恐いよな。 偶然頷いてるとでも思っているのだろう。 あ、ちょっと。 そう言いかけたが、出てくるのはやはり「ああうおおむ」と言った理解不能の言葉だった。 なぜこの娘はいつも隙あらば俺をベッドから持ち上げようとするのか。 落としたらどうするの。 もちろん俺は身をよじって抱かれまいとする。 それで諦めてくれるなら泣きわめいて母親を呼ばなくて良いからな。 アルフィに悪気はなさそうだし、何度も母親をけしかけて泣かせるようなことは極力したくない。 「動いちゃだめ!めっ!」 うるせえ! そんなわけに行くか! あっちょっと、マジで叫ぶぞ! 止めろって! あー!! 「アルフィ!!」 ビクッとアルフィが反応し、俺の脇腹に入れていた手を止める。 その顔はみるみる真っ青になっていく。 あーあ。 知らね。 母親から腕を掴まれて引きずられて行くアルフィ。 目に涙を浮かべながらうなだれている彼女に、 今回で反省して2度としないようにと念を送ってみた。
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