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蟻通は黒川口の戦いの際に、会津一番槍と共に先発したが、間もなく銃弾に倒れた。 腰に何発もくらい、敵も味方も蟻通は戦死したと思い放置されていたらしい。 やがて息を吹き返した蟻通は、刀を杖代わりに立ちあがり、三歩進んでは倒れ、五歩進んでは倒れ、時には死体に紛れて敵をやり過ごして、帰陣を果たしたのだ。 沖田は俺から見ても天才と呼べるような才能を持っている男だった。幸いにして近藤さんという師に恵まれたわけだが、おそらく師がいなくても、独学であったとしても最終的には剣術を修めたのだろうと思う。 しかし沖田が”先生”と呼ばれることができたのは、師が近藤さんだったからだ。 ――総司、お前はすごい隊士を育てたぞ。 「世話ばっかかけて、ホントすんません」 俯き肩を震わせるこいつを誰が責めようか。その肩にそっと、手をのせる。 「いや、よく戻ってくれた」 そうだ、こんな隊士がいる限り、俺はまだ死ねないのかもしれない。
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