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疎らに逃げていた中で目にした二人目の脱落者は、踵の高いヒールを履いていた女性だった。
転んだ際に酷く足を捻ったのだろう。必死の形相で立ち上がるも、肥え太った身体を支えるのは難しく、追い掛けて来る奴等と同じスピードでしか走れない。
しかも私達は疲れ初めていた。
機械的に追って来る相手に対して、最初は余裕を持って逃げられていたものの常に追い掛けられ続けている状況は心身共に酷い疲労を蓄積させて行く。
たった一晩。
ただの徹夜なら余裕で過ごせただろうに、何時如何なる場所から襲い掛かって来るかも分からない相手に怯え、周囲を窺いながらの逃亡は疲弊を極めた。
誰もがノロノロと逃げる女性へと手を差し伸べられない。
再び転び、最早起き上がる力も残されていなかった彼女に、死者の群れが追い縋り餌食とするのを視界の端に収めながらも私達は逃げた。
非情だの残酷だのの思いは、今の立場に成った以上持つ余裕等ない。
あれは安全な場所に居て、高みの見物が出来るからこそ持てる感情だと思い知った。
底辺を這いずる状態の今では命取りの感情だ。
闇を切り裂き、悲痛な叫びが上がる。
「嫌あああッ、痛たあああい」
断末の叫びを耳に入れたくなくて両手で頭を覆った。
それでも指の隙間を抜け声は届く。
泣き叫びたいが昨日の昼以降、この島に上陸してからの私達は何も口にしていない。
無駄な事に体力は使わないべきだと酷薄な理性に従った。
「奴等、夜行性って可能性は無いかな?」
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