第1章 窓の外の猿

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言いたかったから、としか思えないけど。 「舞台美術専攻科。高校演劇大会では二年のときに関東南ブロック優勝で翌年全国大会出場。三年のときはブロック大会三位。そのとき舞台美術で受賞暦あり」 「そんながっつり調べたんですか」 わたしは愕然とした。どんだけわたしを追い込もうと思ったんだ。 「いや、見た目からは元気だけが取り柄のガテン系かと。調べたら意外とやるなぁと感心してさ。ひとってやっぱり見かけで判断つかないな」 「でも、見たとおりですよ。本当にしたいのは身体を遣った大工仕事です。大道具志望なんですよ。舞台美術のデザインをやったのはなんか他にやる人がいなかったんです、その時たまたま。だから仕方なくやってただけで。…まあ、おかげでこの大学にもすんなり入れたわけですけど」 「だろうな。…奨学金も受けてる?」 そんなことまで訊くの?わたしは肩を竦めた。 「全額じゃないですけど。給付型のやつを。…立山さん、どうせ全額給付型でしょ」 「そうだよ」 やっぱりね。 彼は腕組みして木の幹に寄りかかり、わたしを見た。余談だが、やっぱり前言撤回。この人、お昼なんて下賤なものは召されないらしい。…お腹空いたなぁ…。 「そんな小川さんを見込んで言うんだけど」 わたしは彼を見返した。少し身構える。どうやらここまでは導入で、これからが本題らしいってわかったから。 「…何ですか」 「そんなに構えないでよ。悪い話でもないと思う」 彼は相変わらずにこりともせず、あっさり事もなげに続けた。 「今度の九月の学生公演なんだけど。俺と組まない?」 結局二人肩を並べて(と、言うにはだいぶ身長差があるけど)向かったのはお洒落なカフェテリアではなく、学食だった。まぁ、わたしもそっちのがいいんだけどね。小洒落たランチプレートなんかでわたしの腹は騙せないし。揚げ物がっつりのA定食やらカツカレーやらの方が断然いい。 わたしのことを気にする風もなく足を止めずに俯いて何やらスマホをちゃっちゃと操作し続けてる。連れと話を保たせる気ゼロじゃん、全く今時の若もんは…、と思ってたらふと顔をあげ、こっちに視線を向けて 「演出と脚本とヘアメイクは決まってるから、今呼んだ。紹介するよ」 どうやらLINEで今連絡したらしい。話、はや。 「もしかして一緒にやる奴もう決まってた?だとしたら話した方がいいかな、俺から」 わたしは肩を竦めてみせた。
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