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「なあ、まさかまだあいつを忘れらんねーとか思ってんの?あんな二股男に俺が負けるとかありえねーだろうが」
いつの間にか吉田の顔からニヤニヤと下卑た笑いが消えていた。
嫌な男だ。
同じ委員会でなければ、会話もしたくはないタイプだった。
「あなた、モテるんでしょう。私ではない誰かを探した方がいいんじゃないかと思う」
比佐の本心だ。
抑揚のない言葉は、本人が考える以上に冷たく響いて夕闇に溶けていく。
吉田の顔が朱に染まった。
一歩、比佐に向かって足を踏み出す。
直感的に逃げなければ、と考えたが、彼女の細い腕はあっけなく捕らえられた。
比佐が荒木以外の異性に触れたことなど、ない。
それは、ぞわりと背筋に何かが這い上がるような恐怖を呼び起こした。
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