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テルのいう通りの筋書きが進駐軍作戦部では立てられていた。いくつもある前提がすべてうまくいったときには、確かにそれも可能かもしれない。だが作戦部にはB案はあるのだろうか。もし「須佐乃男」が敗れたとしたら、あるいは操縦者候補の適性が基準に達せず100パーセントの戦力を引きだせないとしたら、「シュルス」2体がもう日乃元に向かっているとしたら。悪い予測はいくらで浮かぶ。
タツオは子牛のカツをつまみながら、ジョージを不安げに見た。人の心にはクロガネが最初から張り巡らしてあるようだった。タツオの恐怖や不安はジョージには光よりも速く伝わる。
「これは悪口だと思わないで欲しいけど、日乃元の軍隊には歴史的に作戦が失敗した場合のことをまったく計画に入れない悪い癖があるよね。前世紀の大戦ではそれで手痛い目に遭(あ)っているが、今回の本土防衛戦でも同じだ。誰もが勝利しか口にせず、もしものときは一億玉砕を叫ぶ勢力が軍の多数派だ」
「そんなことすりゃ、日乃元はぺちゃんこなのにな。ひとりも生き残らないで、国が残るはずないだろ」
テルが義手に力を入れた。手品のようにフォークがぐにゃりとねじ曲がっていく。
「最初から負けることを想定するのは、日乃元の戦略にはない。そいつは怯懦(きょうだ)な負け犬の考えかただ」
クニが小声でいう。
「勘弁してくれよ。昼飯がまずくなる。おまえ、フォーク何本駄目にするんだよ」
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